4.パンチでピンチ

私が中学3年生になり、ようやく「宇宙大作戦」を見るようになったころには、我が家もカラーテレビになっていた。
我が家にカラーテレビが導入されたのは世間の常識から相当遅れていて、そもそも白黒テレビというのは自分の家でしか見たことがなかったくらいだ。

白黒テレビに関することで強烈に記憶に残っているのは、家に従兄が遊びに来ていたときのこと。一つ年上の従兄と楽しく遊んでいたのだが、夕方になって「もう帰りたい」と言い出した。まだそんなに遅い時間ではなかったし、むこうの親も一緒だったので「まだいいじゃないか、もっと遊ぼう」と引き止めた。
親たちも「まだ遊んでいていいよ」と言っている。
しかし従兄は強硬に帰りたいといい続ける。
それはなぜかと問い詰めると、従兄は言った。
「ぼくは『巨人の星』を見たいのだ」
なぁんだ、そんなことか。じゃあ何の問題もないや。私は問題が解決したことを確信してこう言った。
「うちで見ていけばいいよ」
従兄はとても言いにくそうにポツリと言った。
「ぼくはカラーで『巨人の星』を見たいのだ」

そうか。
見たいのか。
『巨人の星』を。
カラーで。

私はずっと白黒テレビで育ってきたので、テレビ番組をカラーで見たいという欲求は無かった。しかし。今思えば確かにそうだろうな、と思う。毎週カラーで見ていたら白黒で見るのはいやだろうな、と。

で、スタートレックの話だ。やっと。
小学生の時は、確かに話を理解できなかったということもあるだろうが、白黒テレビで見ていた、ということもいまいち楽しめなかった原因になっていたのではないか。
乗員の制服なんかも、白黒で見ると「黒に近いグレー」「濃いグレー」「薄いグレー」だったのがカラーで見れば赤青黄色と、とてもカラフル。
毎週のように出てくるどこかの惑星も青かったり赤かったり緑だったりで、とてもきれいだ。
印象があまり変わらないのはエンタープライズ号くらいか。
小学生の時にこのカラーを見ていたら、いくらかでも「見る楽しみ」は増えていたかもしれない。

しかし番組そのものを見る以外の楽しみと言えば、何と言っても「スタートレックごっこ」だ。
中3にもなってごっこってのもなんだが、どちらかというと、牛乳屋のせがれのエンサンが登場人物の物まねをするのを面白がって見ていることが多かった。
エンサンはセリフの物まねもよくやっていたが、「スキュキュッ」と口真似しながらコミュニケーターを取り出して話すまねをしたりとか、小道具がらみのネタも好きだった。
そしてみんなでやっていたのが「バルカンパンチ」である。
ミスタースポックが人の首の辺りをちょいとつまむと相手は失神してしまうというあの技である。
エンサンが「バルカンパンチ」と呼んでいたので、当時の仲間はみんなそう言っていたが、本当は「ヴァルカンネックピンチ」という名称なのだと最近知った。きっとエンサンが勝手に呼んでいたのだろう。

とにかく仲間内では、いつでもどこでも首根っこをキュッとつままれたらガクッと体の力を抜かなければいけないという不文律ができあがっていた。
廊下を歩いてる時にキュッ、ガクッ。
教室でまったく関係ない話をしている時にキュッ、ガクッ。
校庭でサッカーをしている時にキュッ、ガクッ。
通学路で後から忍び寄ってキュッ、ガクッ。
詰襟の学生服を着た丸坊主どもが町のあちこちでキュッ、ガクッ。
知らない人が見たら頭のおかしい子供に見えたに違いない。
しかし中学時代のスタートレックの思い出はこの遊び抜きでは語れないのであった。

2003.4.19 GOBDASHA


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