1.出会いと別れ

 今では「TOS」と呼ばれ、その後のシリーズと区別されるようになったスタートレックシリーズの第1作、「宇宙大作戦」と私が初めて出会ったのは日曜日の夕方だった。
なぜ日曜日の夕方だったかというと、私が住んでいた静岡県ではその時間に放送していたからだ。
それが静岡県で初めての放送だったのか、再放送だったのか今となってはわからない。
私が小学3年生か4年生のころだったように思うが、それも確かではない。いずれにしろ、今から30年かそこら前の話だ。
調べればわかるのかもしれないが、調べない。面倒だから。
多分冬だったと思う。日が長い季節の日曜の夕方にテレビなんか見てなかったと思うから。
缶蹴りとか、ドロケーで忙しかったはずだから。
もちろんこれも確かな記憶ではない。

しかし、なぜ「宇宙大作戦」を見ようと思ったのかははっきりしている。
アキラが面白いと言ったからだ。
アキラって誰だ?
アキラは小学校の同級生で、マンガやら何やらに鼻が効くやつで、面白いものをたくさん知っていた。いつも楽しそうにいろいろ教えてくれるやつだった。
さらに、当時の小学生にしてはマニアックなやつで、マットアロー1号のプラモデルを走行用のタイヤとゼンマイボックスをはずして作ったりしていたと言えばそのマニア度がわかってもらえるだろうか。もらえないだろうか。
私にはプラモデルを設計図どおりに作らないという発想は出てこないが、アキラは設計図よりも、タイヤとゼンマイボックスをはずして、より本物に近い形に仕上げることを選んだのだ。
本物のマットアロー1号なんて無いけどさ。

ついでに言うと、アキラはものすごく絵がうまかった。
どのくらいうまかったかと言うと、タイガーマスクの絵を描く時に、私が、アニメ版の簡略化した虎の顔を描いていたのに、アキラは原作版のリアルな虎の絵を描いていたと言えばわかってもらえるだろうか。もらえないだろうか。

そんなアキラが
「う、う、宇宙大作戦、お、お、面白いよ。え、え、エンタープライズ、か、かっこいいよ」と言うのだ。見てみようという気にもなるではないか。
鋭い読者は今の一言でお気づきかもしれないが、アキラは「どもり」だった。
「どもり」というと、マイナスのイメージがあるかもしれないが、アキラがどもりだったおかげで、私はどもるのはかっこいいものだと思っていた。
本当はどもるのがかっこいいんじゃなくて、アキラがどもりながらしゃべる内容がとても面白かったということなのだが、当時の私にはそんな区別はつかなかった。どもりゃいいもんだと思ってまねしたりして、事情を知らない先生に怒られたりした。
からかってたんじゃなくて、あこがれてたんだよう。先生よう。
とにかく、そのくらいアキラは私に影響力を持っていたのだ。

何の話だ?
そうそう、そんなわけで、小学3、4年生(くらい)のある冬(多分)の夕暮れ時(確実)。
私は、アキラがお、お、面白いと言う「宇宙大作戦」とやらを見るために、まだ白黒だった我が家のテレビのスイッチを引っ張った。
昔のテレビはスイッチを引っ張ってつけるのだ。
ついでに言っとくと、スイッチは引っ張りすぎるとスポっとぬけてしまうのだ。
で、抜けると鉄の棒が出てくるのだが、それをさわるとビリビリしびれる、なんてことは最近のいたれりつくせりの家電業界の中で育ってきたぼっちゃんじょうちゃんには想像もつくまいなぁ。もちろん、リモコンのような、人間を堕落させる道具など存在しなかった。

「ビリビリしびれる」と言えば、私が子供のころ毎日のように遊んでいた神社に壊れた街灯が立っていて、ポールの途中、当時の私が手を伸ばしてやっと届くあたりに電線が露出していて、そこをさわると、これまたビリビリしびれた。
こっちのビリビリはテレビのビリビリの3倍くらいの強さで、私は時々、こわごわそこにさわってはビリビリしていた。
思えばビリビリが好きな子供であった。
その露出した電線は、私が中学生になったころにビニールテープで補修され、ビリビリできないようになってしまった。
中学生の私はもうビリビリしたい子供ではなくなっていたが、それを発見したときはちょっと寂しかった。もうビリビリできないのだ。
子供をビリビリさせるようなものは、世の中から抹殺されるのだということをこの時初めて思い知らされた。

で。
何の話だっけ?
あ、そうそう。
こうして、初めて「宇宙大作戦」と遭遇した私だったが、実はその面白さを理解することができなかった。
宇宙船が出てきて、宇宙人が出てきて、時たま光線が飛んだりして、私好みのはずなのだが、ダメだった。
「宇宙家族ロビンソン」や、「タイムトンネル」とかは面白がって見ていた記憶があるので、アメリカンドラマがダメということはなかったと思う。
今思えば、スタートレックの一番面白い部分、後に好きになる、ドラマや、設定の部分が、当時の私には難しくて理解できなかったんだろうと思う。
耳の尖ったおじさんの粋なセリフもなんだかわけがわからなかったんだろう。

結局、その日の放送を一話通して見ることもしないで、私の初スタートレックは終了した。
その後もアキラは「お、お、面白いよ」と言い続けたため、何回か見ようとはしたが、毎回最後まで見なかったような記憶がある。
ただ、え、え、エンタープライズのデザインは斬新でかっこいいということだけは印象に残った。
そのエンタープライズにも、ちょっとした思い出があるのだが。

2003.3.28 GOBDASHA


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